ダンスの新たな地平を切り拓くNDTの軌跡と魅力(前編)

2024.06.27

2024年1月28日(日)に愛知芸術文化センターにて開催された、「出会おう!学ぼう!シェアしよう!愛知県芸術劇場 ラーニングプログラム2024 映像で見る世界のダンス」より統括プロデューサー唐津絵理によるNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)のカンパニー紹介を抜粋してお届けします。(全2回)


NDTの誕生

ネザーランド・ダンス・シアター(Nederlands Dans Theater)は、頭文字をとって、NDTと呼ばれているダンスカンパニーです。1959年に設立され、オランダのハーグに本拠地があります。オランダ国立バレエ団(当時の名称は「ネザーランド・バレエ」)にいた18名のダンサーたちが、バレエの古典的なスタイルに対して、「もっと革新的なことをしたい」と新しいカンパニーを作ったのが始まりです。

NDTは世界的に名を知られていますが、実は民間のカンパニーです。もちろん、国や市からの補助はありますが、基本的には興行収入(公演鑑賞のチケット収入)や、寄付金などで賄っています。この点が、ほかの世界的に有名なパリ・オペラ座バレエ団や英国ロイヤルバレエ団などとは異なります。

設立初期は、ハンス・ファン・マーネンやグレン・テトリーという有名な振付家の作品を上演していました。現在オランダ国立バレエ団の芸術監督も務めるファン・マーネンは、モーリス・ベジャールとほぼ同時期にフランスで活躍していたローラン・プティという振付家の下で育ったダンサーです。プティは、当時流行していたキャバレーやポップなモダンバレエの世界、ショーダンス界などでも活動していました。一方で、テトリーはマーサ・グラハムの下で踊っていたことがあり、アメリカのモダンダンスの影響を強く受けています。NDT初期の新しさを取り入れるという時に、西洋のモダンバレエとアメリカのモダンダンスがミックスされていたことが象徴的です。

 

世界的に最も知られたコンテンポラリーダンス・カンパニーへ

1970年代に、チェコの振付家イリ・キリアンが芸術監督に就任すると、さらに世界屈指のカンパニーへと発展を遂げました。それから現在まで、NDTは多くの振付家を招き、様々な作品を創作、発表しています。キリアンがいた時には彼の作品が断然多く、「キリアン・カンパニー」と呼ぶ人もいるほど名前が浸透していました。彼の作品が皆に愛され評価が高くなったため、世界的なツアーをできるようになり、ようやく経済的にも成り立つようになったと言われています。


NDTを「世界的に最も知られたコンテンポラリーダンス・カンパニーの一つ」と紹介していますが、在籍している素晴らしいダンサーたちは実はバレエ出身です。そのためカンパニーメンバーの中には、自分たちが踊っているものを「コンテンポラリーダンス」と呼ぶ人もいれば、「コンテンポラリーバレエ」と呼んでいる人もいます。作品によってどちらの要素が強いか異なるため、言葉の使い方を分けているところもあるようです。


NDTが、「バレエ団」ではなく、「シアター」という呼び方をしているように、ある意味、演劇的な要素も取り入れたパフォーミングアーツのカンパニーだという自負があると聞いています。

 

多様な振付家との協働

NDTは、これまで歴代9名の芸術監督のもとに30名以上の振付家が様々な作品を手がけてきいました。いまやレパートリーとして620以上の作品を持っています。2019年の来日時には、ポール・ライトフットとソル・レオンの2人の振付家が芸術監督(Artistic Director)としてカンパニーを率いていました。日本公演後に2人が退き、現在の芸術監督はエミリー・モルナーに交代しています。


少し前から、クリスタル・パイトとマルコ・ゲッケが、毎年このカンパニーに振付をする常任振付家(Associate Choreographer)として、多くの作品を作っています。その他、バットシェバ舞踊団で知られるオハッド・ナハリンや、ダミアン・ジャレ、アレクサンダー・エクマン、ヨハン・インガー、エドワード・クルッグ、ヨアン・ブルジョワなど、世界的に活躍し、多様な世界観を持つ振付家と共同制作を行っています。踊りだけでなく、『Mist』の上映会のダミアンの話にも出ていましたが、様々な美術家や照明作家、デザイナーなど、アーティストたちのコミュニティとしての役割も担っています。 

 

NDTの2つのカンパニー

それから、特徴的なこととして、NDTには2つのカンパニーがあります。今回来日するのはNDT1で、現在20代半ばから30代後半までの29名が在籍しています。もう一つは、NDT2で、10代から20代半ばの若い方々のカンパニーです。NDT2には、エネルギッシュでスピード感のある動きや、ジャンプや持久力の必要な動きが得意な若いダンサーが18名所属しています。このNDT2の中からNDT1に入るダンサーもいれば、別のカンパニーのオーディションを受けるダンサーもいます。

また、以前はNDT3がありました。NDT1は40歳までしか活動ができません。パリ・オペラ座バレエ団も42歳が定年で、ダンサーの寿命が非常に短いことへのひとつの提案として、キリアンがNDT3を立ち上げました。NDT3は、40歳から60歳が所属でき、年齢を重ねたからこその味のある表現を追求したカンパニーとして非常に貴重でしたが、経済的理由などから、現在はなくなってしまいました。NDT3の存在は、その身体だからこその表現が体現されており、非常に興味深いものでした。

 


後編につづく
*後編では、今回来日する作品の魅力をご紹介します。

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