ダンスの新たな地平を切り拓くNDTの軌跡と魅力(後編)

2024.06.27

2024年1月28日(日)に愛知芸術文化センターにて開催された、「出会おう!学ぼう!シェアしよう!愛知県芸術劇場 ラーニングプログラム2024 映像で見る世界のダンス」より本企画プロデューサー唐津絵理によるNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)のカンパニー紹介を抜粋してお届けします。(全2回)
■前編はこちら


NDTのコンセプト

NDTが目指すものとして、次のようなコンセプトを掲げています。

■NDT Webサイト Our Story はこちら


NDTはダンスカンパニーとして、ダンスを創作し、それを少しでも多く上演し、様々な方に見ていただく活動をしていますが、彼らと話す度にそこに深い使命感があることを感じます。人々にインスピレーションを与え、生活を豊かにし、新しいアイデアや視点を提供するダンスの力を信じて活動しているのです。


NDTの卓越したダンサー

カンパニーのいくつかの特徴を挙げてみます。
まず、ほとんどがバレエ出身のダンサーで成り立っています。それも、少しバレエをやっていたというほどではなく、世界最高峰のローザンヌ国際バレエコンクールに参加するなど、続けていればクラシックバレエダンサーになれるようなダンサーが、あえて新しい挑戦をしたいと集まってきています。所属するのは、世界中から何百人と集まるオーディションで 1〜2名のみ採用されるという非常に厳しい条件のもとで残ったダンサーたちです。


振付家のステップアップの場

振付家がステップアップする場にもなっている点も、非常に特徴的です。
例えば、2023年5月にクリスタル・パイトが率いるカンパニー、キッド・ピボットが来日しましたが、まだ彼女が無名の時に、面白い作品を創れる若手がいるということで、振付の機会を用意したのも、このNDTでした。しかもパイトは、フランクフルト・バレエ団出身でNDT出身ではありません。NDTは29名もダンサーがいますから、ダンサーたちと様々な形で実験できることが創作につながっています。このような場を提供しているところも、やはり素晴らしい点の一つです。
通常、若い振付家はまずNDT2の振付をします。その作品が評価されるとNDT1の振付を行うというように、ステップアップしていきます。作品がレパートリーになり、世界中で上演されることもあります。また、今回の来日公演で上演するウィリアム・フォーサイスの作品もそうですが、元々別のカンパニーで上演された作品の権利を購入して上演する場合もあります。

振付家を招くだけでなく、NDTのダンサーに振付のチャンスを与える取り組みも行っています。毎年、年末にダンサーが振付した作品を発表する公演があります。そこで認められると、NDT2の振付をできるようになるといったステップアップの機会も用意されています。例えば、金森穣さんがNDT2に在籍していたときに振付した作品の上演権をカンパニーが買って、レパートリーになった例があります。 


2人のディレクター体制

NDTの興味深い点は、芸術監督、つまりアーティスティックディレクターと対等なディレクターとして、ビジネスディレクターがいるところです。現在は、銀行家だった女性とツートップで運営しています。公共的な資金のみで運営している団体ではないため、どのように作品を再演して、資金を回収していくことができるか等のビジネス的なマネージメントについても非常に力を入れています。


NDTで活躍する日本出身のダンサー

現在、NDT1には3名の日本出身ダンサーが所属しています。刈谷円香さん、髙浦幸乃さん、福士宙夢さんです。皆さんバレエ団出身のダンサーたちです。刈谷さんと髙浦さんは、2019年の来日公演でも活躍をされました。福士さんは2019年9月にNDT1に移籍しました。2019年当時はNDT2に所属していたため日本に来られませんでしたが、本当に素晴らしいダンサーです。福士さんとは、「絶対NDT1に入って、次回は日本に来ましょう」と話をしていたので、NDT1になったと聞いたときには、非常に嬉しく思いました。

これまでも、NDTには多くの日本出身のダンサーが在籍していました。初期に所属していたのは中村恩恵さんです。2021年に愛知県芸術劇場小ホールで開催した「ダンスの系譜学」で、キリアンと共同制作した『BLACKBIRD』よりソロを上演しました。日本人で初めてNDTに入団したダンサーです。以降、先程も挙げた金森穣さんや小㞍健太さん、井関佐和子さん、渡辺レイさん、湯浅永麻さん、大植真太郎さん、それからキッド・ピボットの公演に出演していた鳴海令那さんもNDT出身です。日本のダンサーが大活躍なので、ぜひ注目してご覧ください。

 

 

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