髙浦幸乃×唐津絵理 対談 多様な5作品を上演する魅力

2024.06.29

NDT Japan Tour 2024 いよいよ開幕!
NDTに所属するアーティストと統括プロデューサー唐津絵理による対談シリーズです。
第三弾は、先日の記者会見にもご登壇いただいた髙浦幸乃さん。今回の来日ツアーでは全5作品に出演されます。
NDT入団までの道のりから、今回の上演作品の創作過程や見どころまでたっぷりとお話を伺いました。

 



 

ダンスを始めたきっかけ
唐津絵理(以下唐津):ダンスを始められたきっかけを教えていただけますか?

髙浦幸乃(以下髙浦):キッズダンス、エアロビックスのようなダンスを5歳から始めて、8歳の時にクラシックバレエを始めました。元々宝塚歌劇団が好きで、入団したいという夢があって。演劇、ダンス、歌をやらなくてはいけないですが、ダンスは小さい頃から始めた方が良いと聞いていたので、バレエを始めました。10~11歳くらいの時には、バレエの方が面白いと思うようになり、本格的にバレエのトレーニングを始めました。

唐津:その頃からプロになりたいと思っていたのですね。

髙浦:そうですね。日本でのバレエ教室の先生が海外で踊られていた方で、「プロになるのであれば、海外で学んだ方が良い」とよくおっしゃっていたんです。2009年のローザンヌ国際バレエコンクールの本選に出場したのですが、そこではスカラシップをもらえませんでした。コンクール後、そのままヨーロッパの学校のオーディションを受け、16歳の時にハンブルク・バレエ学校の入学許可が下りました。

唐津:ハンブルク・バレエ団はジョン・ノイマイヤー作品のイメージが強いですが、バレエ学校の方ではクラシックバレエの古典作品なども学ぶのでしょうか?

髙浦:学校はワガノワ・メソッドで、みっちりクラシックバレエの授業です。その他、クラシックバリエーション、パートナリング、モダン、フォルクダンスの授業がありました。ただ学生たちが習うレパートリーの中にもノイマイヤーの作品があったり、学生もカンパニー公演に出演する機会も多かったんです。学校とバレエ団が同じ建物にあるため、学校もノイマイヤーのカラーに染まっていました。

唐津:ノイマイヤー作品を踊る中で、コンテンポラリーダンスへの興味が湧いてきたのでしょうか?

髙浦:ノイマイヤー作品のように、クラシックの基礎から発展されたコンポジションのスタイルにとても興味を持ちました。また、学校のカリキュラムに、モダンダンスの授業と自分たちで創作するコンポジションの授業がありました。生徒に創作の機会を提供することに積極的な学校で、コンテンポラリーダンスに対する興味が湧いてきました。先輩たちの創る作品がコンテンポラリー寄りだったので、そこでも刺激を受けました。

NDT入団までの道のり

唐津:卒業後は、どのようなプロセスを経てNDTに入団されたのでしょうか?

髙浦:学校を卒業してから2年間、ノイマイヤーが新しく作ったジュニアカンパニーに入団して、その後、NDTに入りました。タイミングが良く、学校を卒業する時にジュニア・カンパニーが設立され、私は第一期生でした。ダンサー8名だけの小さなグループだったのですが、その2年間で22作品の新作を上演、ドイツ国内、中国ツアーをしたり、刑務所での公演など、とても濃厚な時間を過ごしました。ノイマイヤーの新作にも携わり、彼のレパートリーを踊る機会もたくさんいただきました。外部から振付家がきてクリエイションすることも多く、その振付家の中にNDTの元ダンサーの方もいました。その作品に参加して、NDTに行きたいという夢が芽生えました。

唐津:たくさんの振付家の方との関わりの中で、なぜNDTに関心を持ったのですか?

髙浦:学生の頃からコンテンポラリーの作品を踊る時に、クラシックよりもすんなりと自分の体に入ってくる感覚がありました。ジュニアカンパニーでNDTの元ダンサーの方の新作クリエイションに参加し、「このスタイルだったら、もっと自分の持ってる内に秘めたものをもっと表現できる」と確信したんです。自分はこの道に進むべきだと感じました。

唐津:それで、NDT2の試験を受けられたんですね。

髙浦:はい、学校を卒業する時にも一度受けたのですが、レパートリーの試験まで進んだものの、受かりませんでした。ジュニアカンパニーの2年目の時に2度目を受けて、NDT2に入ることになりました。

唐津:そこからNDT1に入られたときは芸術監督は、ポール・ライトフットとソル・レオンでしたよね。前回の2019年NDT来日公演でも、彼らが振付した作品群で踊っていらしてすごく印象に残っています。
ライトフット時代と、今の芸術監督エミリー・モルナー時代の両方を幸乃さんは経験されていますが、カンパニーにはどのような違いがありますか?

髙浦:監督が変わり、カンパニーの目指すものや、雰囲気も変わったように思います。レパートリーもクラシック要素が強い作品から、かなりコンテンポラリー寄りになりました。ダンサー出身ではないクリエイターたちとの作品づくりも増えました。 最近の作品づくりは、動きのストイックさを目指すより、新たな感覚を舞台上にもたらそうとする作品が多い気がします。自分の動きにも自由が生まれた感覚があり、毎公演違った踊りを目指しています。

唐津:クラシックバレエのテクニックを問い直す振付家を多く呼んでいる印象はありますね。それはモルナーがフランクフルト・バレエ団で踊っていたことも関わってるのではないかと思います。フォーサイスはバレエのテクニックを尊重しつつ、脱構築をしたと言われています。最近もヒップホップのダンサーと協働するなど様々なチャレンジをされる方なので、そのような精神性をモルナーも持っているのかなと感じています。

 

 

日本ツアーの作品について

唐津:今回のジャパンツアーでは5作品上演しますが、幸乃さんはどの作品に出演されますか?

髙浦:5作品全てに出演します。キャストが2つある作品もあるため、同じ作品でも出演しない場合があります。

唐津:そうなのですね。それでは、各作品について伺いたいと思います。オリジナルキャストの作品もあれば、そうでないものもあるかと思いますが、まず幸乃さんが一番深く関わった作品について教えてください。

髙浦:『La Ruta』と『Jakie』と『I love you, ghosts』がオリジナルキャストです。その中でも、自分のアイデアが大きく反映された作品が『La Ruta』ですね。『La Ruta』はダンサーが様々なアイデアを出して、ガブリエラ・カリーソと一緒に作り上げていきました。『Jakie』はその反対で、シャロン・エイアールのスタイルが強くあります。シャロン自身がインプロビゼーションしたものを映像で撮影し、それを元に振り起こしするかたちで進められました。『I love you, ghosts』のマルコ・ゲッケは、彼が簡単に見せた動きをダンサーが解釈し、彼のスタイルに則って組み立てていく作り方です。ゲッケの色が強く出ていると思います。ダンサーと一対一で作っていくことも多いんです。

唐津:舞踊言語としてのオリジナリティが高いのは、ゲッケかなと思います。誰が見ても一見して彼の作品だとわかりますよね。

髙浦:そうですね。その言語が確立しているからこそ、ダンサーもどこを目指しているかというのが分かっているため、より作品を深めていくことができます。その中でもそれぞれのダンサーの個性が出てくるところが面白いなと思います。

唐津:あのとても速い動きをゲッケが「こんな風にやって」と実際に見せてくれるのですか?

髙浦:そうですね。とても人間的なジャスチャーを見せて、振付をしてくれるときもあります。ただ、スピードは私達の5倍ほど遅いスピードです。また、「左手をこうして…..」と、説明しながらガイドしてくれるときもあります。ゲッケが速く動いて見せることはないんですよ。それを隣で「はい、やってみて。」と言われて、ダ・ダ・ダ・ダダダダと、ゲッケの動きを解釈し、彼の言葉に変換して高速で振付をやります。彼の見せてくれる身振りが、とても長いこともあるので、記憶力もすごく必要なんです。

唐津:『Solo Echo(ソロ・エコー)』は再演ですが、幸乃さんは今回初めて踊られますか?

髙浦:2019年にプログラムに入っていたのですが、その時にはBキャストで踊りました。クリスタル・パイトの作品の中で私が一番好きな作品が『Solo Echo』なんです。今回私はオリジナルキャストのアラム(Aram Hasler)と一緒に踊ることができました。NDT2にいた時から、『Solo Echo』を踊ってるアラムを見ていて、憧れていた存在です。今回彼女と一緒に踊ることができて夢のようです。

唐津:夢の共演ですね。『Solo Echo』の魅力はどんなところでしょうか?

髙浦:音楽とダンスのピュアさでしょうか。シンプルなのに胸に刺さる。

唐津:パイトは前回『The Statement』を上演しているので、言葉を使った振付というイメージを持っている方も日本では多いと思います。『Solo Echo』は全く違うタイプの作品ですね。両方のタイプのパイトの作品を踊られてきたと思いますが、踊り自体の違いは感じますか?

髙浦:『Solo Echo』は、パイトがムーブメントにとても集中してた時期なのではないかと思います。彼女特有のジェスチャーやアイソレーション、人形のような動きも含まれていますが、『Solo Echo』は全身のムーブメントがとても際立っていると思います。ダンスと音楽に集中して作られた作品だと思います。パイトが今のスタイルに至るまで、どのような作品を作ってきたのか。その経緯を日本のお客様にも観ていただけるのが、とても嬉しいです。

唐津:フォーサイスの『One Flat Thing, reproduced』は、2000年に作られた作品ですが、再演時にはどのように振付が進んだのでしょうか?

髙浦:フォーサイスのアシスタントの方が来てくださりました。ダンサーは、ステージ上でそれぞれ全く違う動きをしている作品のため、1人が全ダンサーに個別に振り写しをするのはかなり大変です。そのため、まずはオリジナルのビデオからそれぞれのパートの振付を学んで、アシスタントの方からディテールを調整していただくかたちで振り写しが始まりました。

唐津:フォーサイスは即興性の高い作品も多いと思いますが、この作品の振付は決まっているんですか?

髙浦:ほぼ全て決まっています。初めの2人のキャラクターと、途中で1人のダンサーがテーブルの周りを動くところはインプロビゼーションです。タイミングも、ある脚の動きに、離れたテーブルで踊っている人の脚の動きとマッチするというように、その動きのマッチが全てにおいて決まっています。

唐津:それは緊張しますね。

髙浦:そうですね。常にあたりを見回しながら踊ります。(笑)リズムやテンポも毎回少しずつ変わってきます。この作品は、誰が南極点へ最初に到達できるかを競っていた各国の探検隊のレースを題材にしていたと教わりました。機能的に動きながらその頂点を目指して行くというイメージがあるそうです。そのため、トライアンドエラーを繰り返しながら、常に他のチームと競争しながら前進していくイメージでのぞんでいます。その振付の要素に加えて、フォーサイスのテクニックに則った体の動かし方があります。プレイヤーとして、フォーサイスのメソッドを行いながら、自分がどのように作品に加わるかという、ゲーム感覚の楽しみがあります。

唐津:『La Ruta』の創作過程をもう少し詳しく伺いたいと思います。幸乃さんと宙夢さんが特別な存在感を放っています。日本的なアイコンがあちこちに登場する作品ですよね。どのように作られたのでしょうか?

髙浦:創作過程としては、まず2週間ほど朝から晩までキャスト全員が同じ部屋にこもってアイデアを出し合うところから始まりました。様々な小道具を使いながら、簡単なテーマに沿って、グループや個人で「ショート仮装大賞」のようにパフォーマンスをし続けました。それがカリーソのリサーチ方法なんです。例えば、奥から車が来て、ドアが開いて、人がボンと放り出されるイメージが彼女の中にあったとします。そしてそのシーンの前後を作って下さいというお題が出されます。そのような作り方です。

唐津:まず、カリーソのメインのイメージがあって、その前後をダンサー達がアイデア出しをするというような作り方なのですね。

髙浦:そうですね。彼女の中にぽつぽつとイメージや出来事がアイデアとしてあるのだろうと思います。例えば、車から人が放り出される。でも、その後何が起こるかは、彼女にもまだ分かっていません。それをダンサーと一緒に探していきます。カリーソの中で「何か起こりそう」という瞬間をピックアップして要素を詰め込み、長くしていくんです。「歌舞伎の赤い着物のキャラクターが暗い道にいて迷っている」というイメージも彼女の中に既にあったのだと思います。

唐津:言葉が少しだけ使われますよね。日本語で喋っていたと思いますが、日本でも同じように日本語を話されるのですか?

髙浦:おそらく日本語で話します。話している内容がお客さんに全て伝わるのは避けたいようで、ボソボソと話すことになっています。日本公演では途切れ途切れになった話し方を意識すれば、何を言っているかはわからないという感覚を作り出せるのではないかと思っています。


日本の皆さんにメッセージ

唐津:それでは、日本のお客さまにメッセージをいただけますか。

髙浦:全くスタイルの異なる5作品を同じカンパニーのダンサーが上演しているところが魅力的だと思います。作品を通して、生身の人間がいろいろな性質に変化している状態を劇場で体験していただいて、それを面白いと感じていただけると嬉しいです。

作品によって、自分の心への響き方が異なると思います。そのため、鑑賞している自分に起きる感覚の変化を楽しんでいただきたいです。例えば、『Jakie』はぐっとくるものがダイレクトに伝わってくる作品です。『Solo Echo』は美しい音楽とダンスがマッチしている心地よさや、切なさも感じられます。そして『La Ruta』は、登場人物が時空を超えた異質なキャラクターに変化するため、想像してストーリーを作り上げられると思います。想像力を広げられる余白があるため、見れば見るほど面白い作品で、何度も見ていただきたいです。

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