乗越たかおが解説する、今観るべきNDTの珠玉の5作品

2024.02.13


©Rahi Rezvani
文/作家・ヤサぐれ舞踊評論家 乗越たかお

「これだけ豪華なプログラムなら、オランダまで見に行っても惜しくない……」と思えるほど珠玉の作品群が揃えられているのが今回のNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)公演である。
オランダを拠点に世界のコンテンポラリー・ダンスを牽引してきたNDTは、2019年の来日公演でも記録的な成功を収めた。今回はさらに名作から最先端までダンスの流れを俯瞰できる作品が組まれている。いま世界のダンスをリードするアーティスト達の作品を一挙に見られるチャンスだ。そこで個々の作品について見所を紹介していこう。

 

 

Jakie
by Sharon Eyal & Gai Behar

©Rahi Rezvani
シャロンはかつてオハッド・ナハリンの代わりにバットシェバ舞踊団の共同芸術監督務めていたこともある。自身のL-E-Vダンスカンパニーはジャンルを越えた活躍が高く評価されており、かつては柿崎麻莉子も所属していた。彼らの作品が正式に日本で紹介されるのは初めてかもしれない。
そのスタイルは独特。ダンサー達は密集し、ルルベ(カカトを上げた状態)で細かく揺れ続ける。ひとり離れては再び集団に呑み込まれ、孤独と安寧が幾重にも反響し合う。「早く強く」のダンスを越えた、複雑で強靱な最先端のダンスなのである。

 

 

One Flat Thing, reproduced
by William Forsythe

©Rahi Rezvani
独自の身体理論でダンスを変革したフォーサイスはダンスの地平を大きく広げた巨人である。彼自身のザ・フォーサイス・カンパニーでは安藤洋子や島地保武らが活躍していた。本作はそんな彼の代表作のひとつである。
轟音と共に20人のダンサーが20台の長テーブルを引っ張り出して一面に並べる。舞台空間を侵犯し占拠する長テーブルの周囲で、ダンスは強く、ときにユーモラスに展開していく。動きのセオリーと人間の身体が、こうも見事に溶け合うものか。フォーサイスは、いまこそ再認識すべき価値があると納得させる作品だ。

 

 

Solo Echo
by Crystal Pite

©Rahi Rezvani
パイトの作品は前回のNDT公演でも上演され、今年は自身のカンパニーであるキッドピボットの『REVISOR/検察官』でも来日し、多くファンを得た。ふたつともたまたま言葉を使う作品だったが、今回はダンスのみの魅力を味わえる。
本作は抽象と具象のバランスが絶妙である。具体的なストーリーがあるわけではないのだが、ダンサー達の関係性が、声なきドラマを紡ぎ出していく。様々な事が起こるたび、人と人とが助け合い、つながり合い、そして別れを繰り返していく。ラストは特に胸に迫るシーンが待っている。

 

 

La Ruta
by Gabriela Carrizo

©Rahi Rezvani
自身のピーピング・トムは来日公演も多い人気のカンパニーだ。演劇的な作風で人間のどろりとした内面を描き出す力は本作でも健在。驚きに満ちたイメージが、次から次に観客を襲っていく。
舞台上は、雨よけのついたボックス型のバス停がある田舎の国道のような場所。そこだけボンヤリと映し出された道路へ、次々に奇妙な人々(や鹿やあれこれ)が訪れる。生死の境もあやふやになり、意表をつく展開が淡々と続く。日本の「ある文化」も象徴的に使われる。どこか懐かしさのあるこの悪夢に、ぜひ迷い込んでほしい。

 

 

I love you, ghosts
by Marco Goecke

©Rahi Rezvani
現在最も注目を集める振付家の一人である。何もないフラットな舞台は、薄暗い中央の明かりの中へ、周囲の闇の中からダンサーが現れては消えていく境界のない世界だ。鳥のような痙攣的な動きは、まるで身体から間欠的に吹き出す激情のようだが、それは精密にコントロールされているのである。
本作の冒頭、ハリー・ベラフォンテが歌う懐かしの名曲『トライ・トゥ・リメンバー』の中、何かに急き立てられるように踊るダンサー。タイトルの「幽霊たち」とは何か?最先端のダンスが見せる肢体の切実なリアルを、観客は呼吸をするのも忘れて見守るしかない。

 

 


乗越たかお/Takao Norikoshi
作家・ヤサぐれ舞踊評論家。

株式会社ジャパン・ダンス・プラグ代表。06年にNYジャパン・ソサエティの招聘で滞米研究。現在は国内外の劇場・財団・フェスティバルのアドバイザー、審査員など活躍の場は広い。著書は『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』(作品社)、『どうせダンスなんか観ないんだろ!?』(NTT出版)、『ダンス・バイブル』(河出書房新社)、『ダンシング・オールライフ 中川三郎物語』(集英社)、『アリス~ブロードウェイを魅了した天才ダンサー 川畑文子物語』(講談社)など多数。
現在雑誌「ぶらあぼ」と「アクトガイド」で連載中。【DaBY/ProLab 乗越たかおの“舞踊評論家[養成→派遣]プログラム”】を共同主催&メンター。オンライン『ダンス私塾』主宰。春にバレエチャンネルの連載を電子書籍で新書館から発売予定。

 

 

NDT Japan Tour 2024

群馬 6月30日(日)16:00 高崎芸術劇場 大劇場
神奈川 7月5日(金)19:00 / 6日(土)14:00 神奈川県民ホール 大ホール
愛知 7月12日(金)19:00 / 13日(土)14:00 愛知県芸術劇場 大ホール
※上演演目は各公演異なります。スケジュールをご確認ください。

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